レガシーシステムと AI の連携:API がない場合の課題とつなぎ方
AI に注文書を読ませるところまではできた。ところが、読み取った結果を販売管理システムに入れるのは、今も担当者の手作業。AI の活用を進めると、ここで止まる会社は少なくありません。古くからある基幹システムには、外からデータを出し入れする API がないことがあるためです。
この記事では、API のない基幹システム(レガシーシステム)と AI をつなぐときの課題と、作り替えを待たずにつなぐ方法を、選ぶ順番とともに解説します。
結論:作り替えを待たずに、使える口からつなぐ
- 読み出しは、API か、基幹システムの書き出し機能から。どちらもなければ、データベースを読む(書き込みはしない)
- 書き込みは、API か、基幹システムの取込機能から。どちらもなければ、画面を操作する
- 基幹システムに書き込む前には、人の確認を置く
- つないだ箇所は台帳に残し、作り替えのときに API へ差し替える
レガシーシステムが、AI の活用を止める理由
2018 年に経済産業省の「DX レポート」が「2025 年の崖」として警告したレガシーシステムの問題は、2025 年を過ぎた今も残っています。
IPA の「DX 動向 2025」によると、2024 年度に回答した日本企業 1,516 社のうち、レガシーシステム(老朽化した既存 IT システム)が「一部領域に残っている」は 34.2%、「半分程度」は 13.0%、「ほとんど」は 15.5% で、合わせて 62.7% でした。IPA は、前の年度から傾向があまり変わらず、刷新が頭打ちになっているとみています。
AI を使い始めた会社も、同じ壁に当たっています。クラウドエースが 2025 年 9 月に、AI エージェントを業務で使う情報システム部門などの 111 人に行った調査では、課題の 1 位が「既存システムとの統合・連携が複雑」(51.4%)でした。IPA の「DX 動向 2026」でも、データの整備・管理・流通の課題として、23.3% の企業が「既存システムが対応できない」を挙げています。
AI が役に立つのは、データを受け取り、結果を返せる所だけです。基幹システムとつながらなければ、AI の前と後に人の転記が残り、手間はあまり減りません。
API のない基幹システムとつなぐときの 6 つの課題
1. データを取り出す口がない
基幹システムのデータは、画面か帳票でしか見られないことがあります。書き出し機能があっても、夜間にまとめて出すだけだったり、AI に渡したい項目が含まれていなかったりします。
確かめること:
- 書き出せるデータと項目、書き出せるタイミング(その都度か、夜間だけか)
- 書き出しを、人の操作なしに実行できるか(コマンドやスケジュール)
2. 書き込む口がない
AI が読み取った受注や請求を基幹システムに入れるには、書き込む口が要ります。取込機能があっても、形式が細かく決まっていて、エラーになった行がどう扱われるかが分かりにくいことがあります。
データベースに直接書き込む方法は、勧めません。画面から入力したときにアプリが行う入力チェックや、連動する処理を通らないためです。パッケージ製品では、保守の対象外になることもあります。
確かめること:
- 取込機能の有無と形式(項目の並び、文字コード、日付の書き方)
- 取込でエラーになった行が、どこに、どう報告されるか
- 外部からの取込や操作について、保守契約に条件がないか
3. 画面が、自動化しにくい作りになっている
専用のクライアントアプリ、ホスト(メインフレームやオフコン)の端末エミュレーター、古い Web 画面。どれも人が使う前提で作られています。画面の部品や位置を記録して操作する RPA は、画面の更新や解像度の違いで止まりやすくなります(RPA が画面変更で止まる理由)。
AI が画面を読んで操作する方法は、画面の変化に強い一方、限界もあります。Anthropic は、AI に画面を操作させる機能の説明で、利用者の少ない特殊なアプリを操作するときは信頼性が下がることがあると述べています。社内向けに作られた基幹システムの画面も、これに当たりえます。
確かめること:
- 1 件の入力にかかる時間と、1 日の件数。画面の操作で間に合うか
- 入力した値を、保存の前に画面から読み取って照合できるか
- ホストの端末なら、RPA の端末エミュレーション機能や、ホスト側のファイル転送を使えないか
4. 社内からしか届かない
専用クライアントが特定の PC にしか入っていない、社内ネットワークや VPN の中でしか使えない、ということは珍しくありません。インターネットから切り離された閉域網に置かれている基幹システムもあります。クラウドで動く AI サービスからは、こうしたシステムに直接届きません。
Anthropic は、AI に画面を操作させるときは、権限を最小限にした専用の仮想マシンかコンテナで動かすよう勧めています。
確かめること:
- 基幹システムを使える PC と、そこへのログインの方法
- 自動化の専用の PC や仮想マシン(VM)を、基幹システムと同じネットワークに置けるか
- 外部(AI モデルの提供者を含む)と通信してよいか
- 自動化に使うアカウントにも、基幹システムのライセンスが要るか
5. AI の誤りが、そのまま基幹システムに入る
AI の読み取りは、毎回正しいとは限りません。誤った品番や数量が受注として登録されると、出荷、請求、会計へと連動して広がり、後から直すのが大変です。
確かめること:
- 書き込む前に、誰が何を確かめるか(全件か、照合で合わなかったものだけか)
- 取り消しや訂正の手順が、基幹システムの側にあるか
- いつ、何を書き込み、誰が承認したかが記録に残るか
6. つないだ箇所が、誰にも分からなくなる
部署ごとに作った RPA のロボット、個人のマクロ、夜間のスクリプト。つなぐ手段が増えるほど、基幹システムのどこに何がつながっているかが分からなくなります。いざ基幹システムを作り替えるとき、これが新しいブラックボックスになります。
確かめること:
- つないだ箇所(画面、ファイル、データベース)と、その担当者の一覧があるか
- 作った人が異動しても、別の人が直せるか
一覧の作り方は「RPA のロボット管理台帳」と同じ考え方で整理できます。
4 つのつなぎ方の比較
| つなぎ方 | 基幹システムの改修 | 件数が多いとき | 画面の変更の影響 | 注意すること |
|---|---|---|---|---|
| API | なければ、追加の開発が要る | 向く | 受けない | ベンダーの対応と費用 |
| ファイル(取込と書き出し) | 今ある機能を使えば要らない | 向く | 受けない | 形式、文字コード、エラーになった行の扱い |
| データベースを読む | 要らない | 向く | 受けない | 読むだけにする。バージョンアップでテーブルの構造が変わることがある |
| 画面の操作(RPA や AI) | 要らない | 1 件ずつで、時間がかかる | RPA は止まりやすく、AI は探し直す | 動かす PC、ログイン、書き込む前の確認 |
選ぶ順番
- API があれば、API を使う:速く、件数が多くても安定します
- 取込や書き出しの機能があれば、ファイルを使う:基幹システムに手を入れずに、まとめて受け渡せます
- 読み出しだけなら、データベースを読む:書き込みには使いません
- それでも残る入力と確認は、画面を操作する:人が画面で行っている作業を、そのまま置き換えます
1 つの業務の中で、混ぜてかまいません。商品マスタは夜間に書き出されたファイルから読み、受注の登録だけは画面から入れる、といった組み合わせです。
例:注文書を読み取り、基幹システムに受注を登録する
取引先からメールで届く注文書を、API のない販売管理システムに登録する業務を、ステップごとに分けると次のようになります。
| ステップ | 担い手 | 基幹システムとのつなぎ方 |
|---|---|---|
| 注文書の付いたメールから、添付を保存する | 決まった手順 | なし |
| 取引先、品番、数量、納期を読み取る | AI | なし |
| 品番と単価を商品マスタと照合する | 決まった手順 | 夜間に書き出された商品マスタの CSV を読む |
| マスタと合わない注文を確かめる | 人 | なし |
| 受注を登録する | 決まった手順(画面が変わったときだけ AI) | 取込機能があれば CSV で取り込む。なければ画面に入力する |
| 受注番号を記録し、失敗を知らせる | 決まった手順 | 登録後の画面から受注番号を読み取る |
AI が担うのは、書式の違う注文書を読む部分と、画面が変わったときの対応だけです。基幹システムに書き込むのは、照合で合った注文と、人が確かめた注文だけです。同じ流れは、活用例の「メールで届く注文書(Excel)の読み取りと受注登録」と「販売管理・会計のデスクトップアプリへの転記」でも紹介しています。コールセンターの通話の後の入力をつなぐ例は、「AI コールセンターと基幹システムの連携」で解説しています。
作り替えとの関係
画面やファイルでつなぐのは、作り替え(モダナイゼーション)の代わりではありません。作り替えが終わるまでの間、AI の前後に残る人の転記をなくすための方法です。
それでも、つなぐ作業は作り替えにも役立ちます。
- 要件の材料になる:どの業務が、どの画面とファイルを、どの順で使っているかが、ワークフローと台帳に残ります
- 差し替えが小さく済む:作り替えで API ができたら、画面を操作していたステップだけを API の呼び出しに替えます。AI の読み取りや人の確認のステップは、そのまま使えます
よくある質問
ホストの端末画面でも使えますか?
画面を読んでキーボードで操作する仕組みなら、端末エミュレーターも操作の対象になります。ただし、件数が多い場合は、端末エミュレーターの画面の文字を API で直接読み書きする方法や、ホスト側のファイル転送のほうが、速く確実です。たとえば Power Automate には、HLLAPI を通じて端末エミュレーターのテキストの取得や設定、キーの送信を行うアクションがあります。
基幹システムのベンダーに、断る必要はありますか?
画面の操作は人と同じ経路を使いますが、保守契約や利用条件に、自動での操作やデータベースへのアクセスについての定めがあることがあります。自動化に使うアカウントに利用者のライセンスが要るかどうかも含めて、始める前にベンダーに確認してください。
基幹システムの画面を AI に見せても大丈夫ですか?
AI が画面を読むときは、画面のスクリーンショットが、選んだ AI モデルの提供者に送られます。顧客や取引の情報が映る画面なら、提供者の規約で、送った内容が学習に使われないか、どれだけ保管されるかを確かめてください。ほかのウィンドウが映り込まないよう、専用の PC や VM で動かすのも有効です。主な AI モデルの提供者のデータの扱いは、「セキュリティ」でまとめています。
Kitewell でつなぐ
Descarty の Kitewell は、AI が作って AI が直す AI RPA です。基幹システムと同じネットワークの中で動き、API のない基幹システムにも、画面とファイルの両方からつなげます。
- 画面の操作:API のない販売管理・会計ソフトや専用クライアントを、macOS と Windows で、AI が画面を読んでマウスとキーボードで操作します。一度うまくいった操作は覚えて、画面が同じ間は AI を使わずに繰り返します
- ファイルでのやり取り:Excel の一覧を、基幹システムの取込形式に合わせた CSV(Shift_JIS も選べます)に書き出し、書き出された CSV を読めます。SSH でのサーバー操作やファイル転送、API の呼び出しも、同じワークフローに並べられます
- AI エージェントから呼ぶ:Claude や ChatGPT から、MCP でワークフローを実行したり、承認したりできます(ChatGPT で実行や承認をするには、Business、Enterprise、Edu のプランが要ります)。中継サーバーへは Kitewell の側から接続するため、社内ネットワークのポートを開ける必要はありません。AI エージェントは、許可したプロジェクトと権限の範囲でワークフローを呼ぶだけで、基幹システムを直接は操作しません
- クラウドのサービスから始める:kintone の承認やフォームの送信など、Webhook を送れるサービスからの通知で実行を始められます(有料プラン)。通知も中継サーバーを経由して届くため、ポートを開ける必要はありません
- 書き込む前に人が確かめる:保存の前の画面を担当者が確認して承認します。差し戻せば、その行だけをやり直します
- パスワードは AI に見せない:基幹システムのパスワードは名前で参照し、値は AI に見せずに Kitewell が入力します
- 止まったら知らせる:失敗や承認待ちを、Slack、Microsoft Teams、メールなどに通知します。Dagu Cloud で同期すれば、各コンピューターの実行の状況をクラウドのコンソールで一覧でき、設定したコンピューターからの報告が 10 分途絶えたときにも知らせます。送るのは実行の状態だけで、ログやパラメーター、出力は送りません
- つないだ箇所が残る:実行ごとにログとスクリーンショットを保存し、ロボット管理台帳を Excel で書き出せます
- 作るのも直すのも会話で:やりたいことを伝えると、アシスタントがワークフローを組み立てます。止まったときは、失敗した実行の画面から原因を相談できます
法人向けプランでは、ワークフローを動かすコンピューターを、貴社のクラウド、オンプレミス、閉域網の VM や専用の PC に置けます。ライセンス、チームでの同期、更新も貴社の環境内で完結でき、社内やローカルの AI モデルと組み合わせれば、外部との通信は発生しません。ただし、画面を読んで操作できる AI モデルは限られ、小さなローカルモデルでは、通常、画面を操作できません。閉域網で使うモデルは、PoC の段階でご相談ください。デスクトップの操作は画面を使うため、画面をロックしない専用の PC か VM で動かします。
つなげるかどうかは、レガシーシステム連携の無料診断で確かめられます。画面を拝見したうえで、つなげるかどうかと、つなぎ方をお伝えします。
まずは、基幹システムへの転記が残る業務を 1 つ選び、2 週間・30 万円(税別)の PoC で確かめられます。合意した成功基準を満たさなければ、費用はいただきません。詳しくは「導入と料金」をご覧ください。
まとめ
- レガシーシステムは、調査に回答した日本企業の 6 割余りに残り、AI の前後に人の転記を残す原因になっている
- 課題は、取り出す口、書き込む口、画面の作り、届く場所、誤りの広がり、つないだ箇所の把握の 6 つ
- つなぎ方は、API、ファイル、データベースを読む、画面の操作の順に選ぶ。1 つの業務の中で混ぜてよい
- 基幹システムに書き込む前には、人の確認を置く
- つないだ箇所を台帳に残せば、作り替えのときは画面のステップを API に差し替えるだけで済む
出典
- IPA:DX 動向 2025(2025 年 6 月 26 日)。レガシーシステムの状況は本文の 2.5
- IPA:DX 動向 2026(2026 年 7 月 30 日)。データの整備・管理・流通の課題は本文の 3.8
- クラウドエース株式会社:AI エージェント活用に関する実態調査(2025 年 10 月 9 日)
- Anthropic:Computer use tool
- Microsoft:ターミナル エミュレーション アクションのリファレンス
2 週間の PoC で、貴社の業務で確かめる
本番と同じ画面とデータで Kitewell のワークフローを動かし、処理時間、成功率、止まったときの直しやすさを測ります。
画面の変更やシステムの更改で止まりがちなロボット、または手作業の業務を 1 つ選び、Kitewell で動かします。
ご用意いただくもの
- 対象業務の窓口となるご担当者(1名)
- 検証用のアカウントと、対象の画面へのアクセス
- 本番に近いサンプルデータ
- Kitewell を動かす端末
- 利用する AI モデルの API キー、または社内のモデルサーバー
30 万円(税別)
- 合意した成功基準を満たさなければ、費用はいただきません
- 初回のヒアリングで、対象業務と成功基準を合意
- 本契約に進む場合は、初年度の契約金額に充当
- 結果のレポート:処理件数、1 件あたりの時間、AI の利用料、止まった回数と理由
- Kitewell は現在パブリックベータ(0.x)です。機能や画面は変わることがあります