DescartyWorkflows
← エッセイ一覧に戻る

AIをコーディングに活用して生産性を向上する正しい方法 — バイブコーディングの問題

Descarty Team

2025-03-22

AIをコーディングに活用して生産性を向上する正しい方法 — バイブコーディングの問題

AIをコーディングに活用して生産性を向上する正しい方法 — バイブコーディングの問題

AIを利用したプログラミング、いわゆる バイブコーディング(vibe coding) が注目を集めています。Cline、Roo、Claude Code、Aiderといったツールが次々に登場し、人間が自然言語で指示を出すだけで自動的にプログラムを生成してくれるようになりました。また、UI構築に特化したV0やboltなども登場しており、プロトタイプの開発が従来よりも圧倒的に手軽になっています。

一方で、SNSではそのメリットばかりが大きく取り上げられる一方、企業システムや長期運用が必要なソフトウェアにおいては問題も多く指摘されています。本記事では、バイブコーディングが向いているケース・向いていないケースを整理し、AIによるコーディングを賢く活用するための具体的なアプローチを提案します。


バイブコーディングとは

バイブコーディング(vibe coding)とは、自然言語でAIに指示を与え、生成されたコードを“そのまま”利用するという新しいプログラミング手法を指します。従来のように開発者が手作業でコードを記述するのではなく、AIが自動的にコードを生成し、それを人間がテスト・修正・調整しながら開発を進めるという特徴があります。

この手法を広めたのは、OpenAIの共同創設者でありTeslaでAIリーダーを務めたこともある アンドレイ・カーパシー(Andrej Karpathy) です。彼は2025年に X でこの概念を提唱し、「自然言語で指示を出すだけで必要なソフトウェアが形になる」という斬新なアプローチに注目が集まりました。特にプロトタイプや個人用ツールの開発を劇的に効率化する一方で、大規模・長期運用のシステムに導入する際のリスクや課題も議論されています。


バイブコーディングが向いていないもの

  1. 企業の情報システム構築

    • 長期的に保守が必要となるケースが大半であり、将来の改修・運用コストが高騰する可能性がある
    • AI生成コードがブラックボックスになるため、トラブルシューティングに時間がかかる
  2. 複雑なソフトウェア

    • 多くのモジュールや連携が必要なシステムは、細部を把握しないままAI任せにすると想定外のバグや不具合が発生しやすい
    • エッジケースや特定のビジネスルールへの対応が十分に行われない可能性がある
    • AI生成コードの最適化やパフォーマンスチューニングが難しい

バイブコーディングが向いているもの

  1. プロトタイピング

    • スピードが重視され、長期保守を前提としない試作品の開発に最適
    • 短期間で動くサンプルを用意し、アイデアの検証やデモを行いたい場合に大きなメリットがある
  2. 使い捨てのソフトウェア

    • 単発のイベントや短期間だけ使用するツール
    • 運用やメンテナンスをほとんど考慮しなくても良いので、AI主導でも問題になりにくい
  3. データ処理や分析スクリプト

    • 一度きりの分析や定型的なデータ処理タスク
    • 詳細なビジネスロジックを含まない処理
  4. 簡単なUI構築

    • プロトタイプやLP、簡易な管理画面など、デザイン重視のUI開発
    • デザイナーやマーケターが自由に試行錯誤できる環境を提供

主要なAIコーディングツールの比較

ツール名 特徴 得意な言語 / フレームワーク 料金モデル 向いている用途
Claude Code ターミナルで自然言語操作が可能なAIアシスタント。コード理解力が高く、Git操作や安全性配慮も。 Python, JavaScript, TypeScript 従量課金(APIトークン) 複雑なコードの読解・修正、LLMベースのローカル補助
Cursor VSCode派生のAI統合エディタ。リアルタイム補完、ファイル全体の文脈把握、直感的UI。 Python, JavaScript, TypeScript 他 サブスクリプション 日常の開発支援、AIによる素早い修正や実験
Aider CLIベース。Git連携でAIにコード変更を依頼→自動コミット。複数ファイル編集も対応。 Python, JavaScript, Rust 他多数 無料(OSS)+API利用は別料金 既存リポジトリ改善、コード保守、対話的な開発
v0 テキストプロンプトから即UI生成。Tailwind+shadcn対応コードを出力し、即デプロイも可能。 React, HTML, Tailwind CSS サブスクリプション(一部無料あり) LP・UI試作、素早いモックアップ、ノンコーディングUI設計
Bolt 自然言語からWebアプリ全体を構築。コード生成・即実行・デプロイまでをブラウザで完結。 JavaScript, React 他 サブスクリプション(一部無料あり) フルスタック試作、学習目的、開発の自動化
Cline VSCode上でAIがコード編集・ビルド・UIテスト・システム操作まで自律実行。human-in-the-loop設計。 多言語対応(JavaScript系中心) 無料(OSS)+API利用は別料金 高度な自動化、ローカル志向、UIテストやCIパイプライン統合
Roo Code Clineベースの強化版。差分編集、高速化、モード切替(PM/QA等)、カスタムエージェントが可能。 多言語対応(TypeScript, React系) 無料(OSS)+API利用は別料金 コード解析・リファクタ・テスト支援・柔軟な役割対応
Devin 自律型AIエンジニア。設計・実装・デバッグ・テスト・デプロイを1人で完結。ターミナルやブラウザも内蔵。 JavaScript, Python 他多数 月額$500+追加利用量課金(ACU制) バグ修正、リファクタ、社内ツール開発、自動E2Eテスト、プロトタイプ

バイブコーディングの本質的な問題

バイブコーディングで生成されたコードは 「AI以外では修正が困難」 という問題があります。人間が自分で書いたコードであれば脳内にメンタルモデルがあり、修正・追加が容易ですが、AI任せにしてしまうと どのように動いているかを細部まで把握しないまま 扱うことになります。

その結果、コードが複雑化していくと人手による保守がより難しくなるため、追加開発においても AI に頼ることになります。さらに、AI が複雑すぎるコードを扱いきれなくなるリスクもあり、将来的にメンテナンス困難なシステムへと発展する可能性があります。


なぜバイブコーディングでは、大規模ソフトウェアを構築できないのか

AIが生成したコードは一見すると動作しますし、ユニットテストもパスするかもしれません。しかし、 動くことと、正しい設計であることはまったく別 です。

「局所最適なコードの積み重ね」による崩壊

現状のAIは、 局所的な文脈に対して“もっともらしいコード”を出力することに長けています 。しかし、これは逆に言えば「全体最適を考慮しない」ということでもあります。

たとえばあるAPIエンドポイントを作ってほしいとAIに依頼した場合、AIは:

  • パラメータのバリデーションをその場で書く
  • ロジックをインラインで展開する
  • 共通処理を抽象化せずにそのまま埋め込む

といった具合に、 その場限りの“即席コード”を積み上げる 傾向があります。

これは小さなプロジェクトなら問題にならないかもしれませんが、機能が増えるにつれて:

  • ロジックの重複が散在
  • 条件分岐が散らかる
  • 責任の境界が曖昧になる
  • 副作用や依存関係が局所に隠蔽される

といった “構造的な歪み”が静かに蓄積されていきます

小さなズレが全体崩壊を引き起こす

これは、建築で言えば「ほんの少しだけ曲がった梁(はり)や柱」を使い続けてビルを建てるようなものです。各部材単体では“誤差の範囲内”かもしれませんが、 それが数十本、数百本と重なって構造を支えるとき、全体としては大きな歪みになります

しかも、プログラムの世界では見た目で“傾いている”ことがすぐにはわかりません。トラブルが起きて初めて、「なぜこのコードはこう書かれているのか?」という設計理由を探る羽目になりますが、 AIがその判断根拠を残していることはありません

つまり、「 なぜそうなっているのか説明できないコード 」が蓄積し続ける構造になるのです。

AIが構築したシステムをAIに修正させるというスパイラル

さらに悪いことに、そうして出来上がったAI生成コードを 人間がうまく修正できない ため、再びAIに頼ることになります。
しかし、AIは常に確率的にコードを生成しているので、 前回とまったく同じ指示をしても同じコードが出てくる保証はありません
これはつまり、 デバッグや修正が「確率ガチャ」になる ことを意味します。

運が良ければ問題が解決されるかもしれない。運が悪ければ、別のバグが混入するだけです。

このような状態に陥ったコードベースは:

  • 人間が全体像を把握しきれず
  • AIに頼るほど収拾がつかなくなり
  • 変更を加えるたびに予測不能な副作用が起き
  • リファクタもドキュメント化も追いつかない

という、いわば 技術的負債のスパイラル に突入します。


AIに任せるべきこと、任せてはいけないこと

このような構造的な破綻を避けるためには、AIの使い方に明確な境界線を引く必要があります。

任せてよいこと 任せるべきでないこと
フォーマット変換、ユーティリティ関数 アーキテクチャ設計、責務の分離
テストの雛形生成、補完 ドメイン知識の解釈・実装方針の決定
定型的なCRUD処理の生成 非機能要件の調整(パフォーマンス、セキュリティ)
設定ファイルの雛形(Dockerfile, YAMLなど) システム全体の設計・依存関係管理

AIを コーディングパートナーとして使う のは大いに有効ですが、 「システムの全体構造を構築する責任」は常に人間が持ち続けるべき です。


分割統治 - AIコーディングの正しいアプローチ

バイブコーディングを有効に活用するための重要な原則として、「分割統治」の考え方を導入する必要があります。

大きなものは分割して作る

  1. モジュール分割の徹底

    • 大規模な機能を大量のコードで開発するのではなく、小さな機能単位に分解
  2. 不確実性とファットテールの回避

    • 大きな機能を開発すると、想定外のエラーや問題が指数関数的に増加する
    • 小さく作って検証を繰り返すことで、致命的な問題を早期に発見可能
  3. レゴブロックの哲学

    • ソフトウェアを小さな部品の集合体として設計
    • 各部品が明確な機能と責任を持ち、組み合わせることでシステム全体を構築
    • インターフェースを明確に定義し、部品の交換可能性を確保

経験者の役割と人間主導の開発

  1. ソフトウェア開発者の経験が不可欠

    • システム分割の最適な方法を判断するには、経験豊富な開発者の知識が必要
    • アーキテクチャ設計やモジュール境界の決定はAIではなく人間が担当すべき
  2. 長期的視点での人間主導の開発

    • 長期にわたってメンテナンスする以上、AIではなく人間がコードを理解し、改善し続ける必要がある
    • AIはツールとして活用しつつも、システムの所有権と理解は人間が持ち続ける

分割統治の原則に基づいたソフトウェア開発へのAI活用は、短期的な生産性向上と長期的な保守性のバランスを取るための重要な戦略です。AIに全てを任せるのではなく、人間の経験と判断を活かした開発が、持続可能なソフトウェア開発の鍵となります。


AIをコーディングに活用し、生産性を高めるためのアプローチ

バイブコーディングを全否定する必要はありません。適切に使い分けることで、AIを活用した開発効率の向上は十分に実現可能です。以下におすすめの具体例を挙げます。

  1. コードへのコメント付与をAIに任せる

    • 人間が書いたコードに対し、自動で解説コメントを生成してもらう
    • 後々メンテナンスを行う際の理解がスムーズになる
  2. 小規模なユーティリティ関数を生成させる

    • 特定の計算やフォーマット変換など、単機能の関数をAIに書かせる
    • 大規模な構造や全体設計は人間が行う
  3. ユニットテスト作成の補助

    • AIが自動生成したテストコードをベースにテストケースを増やす
    • テスト駆動開発のサイクルを回すスピードが向上する
  4. レビューやリファクタリング案の提示

    • 人間が書いたコードに対して、AIにレビューさせたり、リファクタリングの提案を受け取る
    • セキュリティ上の脆弱性や可読性の問題を早期に検知可能
  5. 既存コードの解析と設計書作成

    • 大規模プロジェクトのコードベースをAIに解析させ、ドキュメント生成や依存関係の可視化に活用
    • 全体構造を理解する補助ツールとして活かす
  6. Terraform, GitHub Actions, Dockerfileなどの設定ファイル生成

    • インフラ構築やCI/CDパイプラインの設定ファイルをAIに生成させる
    • ボイラープレートコードの自動生成により、設定ミスを減らす

まとめ

  • プロトタイピングや短命なプロジェクトにはバイブコーディングを積極的に活用するのが有効
  • 長期運用が前提の企業システムや複雑なソフトウェアにはリスクが多いため、慎重に導入する必要がある
  • AIに任せる作業を限定し、人間がコードをしっかり理解できる範囲を維持しておくことが重要

参考資料

Descarty 株式会社では、長期にわたる保守が必要な企業システムでもAIを安全かつ効率的に活用するための伴走型支援を行っています。バイブコーディングのリスクを踏まえつつも、生産性向上のメリットを最大化する方法を一緒に検討いたします。お気軽にご相談ください。